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2009.07.27
[更新/お知らせ]
ヤスミン・アフマド監督を偲ぶ
ヤスミン・アフマド監督が初めて日本に紹介されたのは、2005年のTIFFアジアの風部門。その『細い目』はまさに衝撃でした。マレー人少女オーキッドと“細い目”の華人少年ジェイソンの淡い恋の顛末に、さまざまな民族が暮らす周囲の環境を交えて描いたこの作品は、全くユニークな“マレーシア新潮”の誕生を高らかに告げていました。親密でユーモラスな家族の物語を基調としつつも、民族差別や女性差別といった“毒”もさりげなく盛り込み、しかもマレー映画史の巨人P・ラムリー、インドの詩聖タゴールから金城武、クラシック音楽に至るまで、劇中でそれらへの言及や引用を行う手さばきが実に上品で見事なのです。『細い目』は審査委員の満場一致で最優秀アジア映画賞に輝きました。

翌06年の同部門で『細い目』に『ラブン』『グブラ』『ムクシン』を加えた「オーキッド四部作」が勢揃いしました。このシリーズでは、少女の成長のドラマを主筋に、恋人の死や主人公の結婚・離婚をはじめ、愛しい人々との出会いと別れが切なくも淡々と繰り返されていきます。かつてフランソワ・トリュフォーやユーセフ・シャヒーンは作家の分身のような少年を描いて連作を続けましたが、ヤスミン監督のオーキッド四部作はそれらに匹敵する、21世紀マレーシア映画の金字塔となりました。

その後も『ムアラフ―改心』(TIFF08アジアの風スペシャルメンション受賞)や『タレンタイム』(TIFF09アジアの風で上映予定)でポスト四部作の新たな一歩を踏み出し、いよいよ自らの祖母(日本人)のルーツをたどる新作「ワスレナグサ」の製作に取りかかっていた矢先の訃報に言葉もありません。

ヤスミン監督の遺した諸作品は、これからの世界の道しるべです。大切に上映していきたいと思います。

心よりご冥福をお祈り申し上げます。


石坂健治(アジアの風プログラミング・ディレクター)


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2006年第19回TIFF特集上映の際に来日された時の笑顔。 
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『ムクシン』主演のモハマド・シャフィエ・ビン・ナスヴィップさん(中央)、シャリファ・アルヤナ・シェド・ザイナル・ラシドさん(左)と一緒のヤスミン・アフマド監督(右)
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