2007.10.30
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観客が求めているものは思いやり◆東京 サクラ グランプリほか受賞者会見レポート
「迷子の警察音楽隊」が見事“東京 サクラ グランプリ”に輝き、閉幕を迎えた第20回東京国際映画祭。クロージングセレモニー終了後には、マスコミ向けの記者会見が別室にて行われました。こちらでは、受賞者の皆さんの、興奮冷めやらぬコメントをご紹介します。

■審査員特別賞「思い出の西幹道(仮題)」
まず最初に登場したのは、審査員特別賞の「思い出の西幹道(仮題)」から、リー・チーシアン監督と共同脚本のリー・ウェイさん、そして主演女優のシェン・チア二ーさん。「10月30日が誕生日」というウェイさんは「良いバースデー・プレゼントになりました」と喜びを語り、チア二ーさんは「かけだしの女優の私が東京に来られたことだけでも幸運なのに、賞までいただけて」と初々しいコメントを残しました。「なかなか監督するチャンスに恵まれなかった」(チーシアン監督)と、映画化まで13年間を要した同作品。「数十年かけて運命の人とめぐりあうこともあれば、数秒で出会うこともあるのが人生。掛かった年月は問題ではありません」とウェイさんは付け加えました。

■最優秀監督賞「デンジャラス・パーキング」
最優秀監督賞を受賞した「デンジャラス・パーキング」のピーター・ハウイット監督は、プロデューサーのジュールズ・ベイカー=スミスさんと登壇。「興奮している時、私はとにかくしゃべりまくるんです」と監督自ら語る通り、作品のイマジネーション豊かな表現や「人生のダークな側面について目を向けた原作のスピリットを再現したかった」という想いについて、ユーモアを交えながら次々と語ってくれました。日本映画以外で唯一のワールド・プレミアとなったことについては、「映画祭のスタッフが作品を選んで呼んでくれたわけですが、作品のトーン、リアリティを東京の人々はよく理解してくれました。TIFFもこの映画も非常に“正直”だと思います。それは、自分の信念をハッキリと言うこと。TIFFほど(プレミアに)ふさわしい映画祭はなかったと思います」とコメントしました。

■最優秀女優賞「ガンジー、わが父」、最優秀男優賞「トリック」
最優秀女優賞「ガンジー、わが父」(シェファリ・シャー)と最優秀男優賞「トリック」(ダミアン・ウル)は、残念ながらどちらも受賞者が来日しておらず、監督が代理として登壇。「ガンジー、わが父」のフェロス・アッバース・カーン監督は、受賞後すぐにシャーさんに連絡を入れたそうで「彼女は大変喜んで、感謝していました」とのこと。シャーさんさんはこれまで「女優としてあまり正当な評価を受けてこなかった」らしく、「彼女がどれだけすばらしい女優かを証明できて、本当に嬉しい」と、監督自身の念願が果たせた喜びも語ってくれました。

“学校のために来日を見送った”というダミアン少年の功績を「当然かな? と思います」と語ったのは、「トリック」のアンジェイ・ヤキモフスキ監督と、監督の妻であり美術のエヴァ・ヤキモフスカさん。「数百人のオーディションでも子役が見つからなくて、撮影直前ギリギリに、ロケ先の通りに住んでいるダミアンを見つけたんです」と、監督はキャスティングの経緯を説明。「ダミアンには演技経験がまったくありませんでした。しかし、母子家庭という彼の境遇がキャラクターに近いこともあったのでしょうが、優れたインテリジェンスで、すぐにこちらの意図を掴んでくれました」と絶賛しました。

■最優秀芸術貢献賞「ワルツ」
最優秀芸術貢献賞「ワルツ」からは、サルバトーレ・マイラ監督と主演女優のマリーナ・ロッコさん、プロデューサーのジャンマリオ・フェレッティさんが登壇し、それぞれに受賞の喜びと感謝の意を述べました。“ワンカットで85分間を撮りきる”という前代未聞の作品に、フェレッティさんは「監督が企画を持ってきたときは『かなり難しい』と思ったが、やってよかった」とコメント。マリーナさんは、「監督が本当に労を惜しまなかった作品。苦しみが成功に繋がったすばらしい例だと思います」と語りました。「徐々に時間を延ばしてリハーサルを入念に行ったので、NGは思っていたほどは多くなかった」と語ったマイラ監督。次回作も同様の“ワンカット構成”とのことで、「2時間を考えています。今回は屋内でしたが、次は村全体を巻き込んだ屋外で撮るつもり」と、マスコミ陣を驚かせました。2時間気を抜けない相当なプレッシャーが想像されますが、マリーナさんは「(次回作の出演依頼があったら)もちろん出ます!」と力強く答えていました。

■観客賞「リーロイ!」
「本当に驚いた!」とサプライズ・ムードに包まれての登壇となったのは、観客賞の「リーロイ!」の監督アルミン・フォルカースさんと主演のアライン・モレルさん。両者とも受賞を「まったく予想していなかった」とのことで、素直に喜びを表す初々しさが目立ちました。「ドイツではホロコーストを学べる場所がたくさんあり、子供のころから教育を叩き込まれます。でもコメディ・タッチのものはないんです。人種差別を描いて純粋なエンターテインメント作品に仕上げることは難しいけれど、差別を新しいアプローチで描いてみたかったんです」とはフォルカース監督。モレルさんは「差別と偏見は本当にシリアスな問題です。でも、オープンに話し合える雰囲気を作ることができれば、もっと前向きになれる。コメディはそれができる手法だと思うんです」と、作品について語りました。

■日本映画・ある視点:作品賞「実録・連合赤軍―あさま山荘への道程」、特別賞「子猫の涙」
「日本映画・ある視点」では2作品が賞に輝きました。作品賞は「実録・連合赤軍―あさま山荘への道程」(若松孝二監督)、特別賞は「子猫の涙」(森岡利行監督)です。
「文化庁の助成金申請も蹴られ、映倫審査も最初は受けてもらえなかったこういう作品が賞をもらえるとは、選んでくれた映画祭に本当に感謝しています」と語ったのは、若松監督。「『突入せよ! あさま山荘事件』を観て腹が立った」と会場の笑いを誘いながら作品のきっかけを明かし、「この作品でぼくは(警察、赤軍)どちらにも側にも加担していないです。綿密にリサーチしてますから、90%は真実。なぜ若者が連合赤軍に身を投じたのかきちんと描いていますから、本当に面白いですよ!」と、今後の公開に向けて作品をアピールしました。

「子猫の涙」の森岡監督は、「手前みそですが、おじ(日本ボクシング史上3人目のメダリスト森岡栄治)の映画を作れて嬉しいです。この賞は、おじの賞なのかなと思います」とコメント。ボクシングの内藤VS亀田戦で話題になった反則“サミング”にも触れ、「おじは2戦目でサミングされて目がほとんど見えなくなり、その後は隠して試合をしていたんです」と明かした。

■東京 サクラ グランプリ「迷子の警察音楽隊」
そしていよいよ、東京 サクラ グランプリ「迷子の警察音楽隊」のエラン・コリリン監督と、主演のサッソン・ガーベイさんが登場しました。「受賞の瞬間は、本当に他愛のないことを考えるものですね。どうやって舞台に上がればいいのか、段取りだけを考えていた」というコリリン監督に、「あの賞も名前が呼ばれず、この賞も呼ばれない…と、二人でほどんとあきらめていた」というガーベイさん。会場の笑いを誘いながらも、満面の笑みで受賞の喜びを語りました。「なぜこの映画が全世界で受け入れられているのか?」という質問に監督は、「私は映画を作るだけで、他人が批評したり、作品を観て意見を持つ。なぜなのかは、自分自身では分かりません」と答え、その後ガーベイさんが「この映画は思いやりが描かれていて、それに人々は安らぎを感じるのでしょう。ひとつの小さな村で、国や宗教を超えた出会いがあり、お互いが通じ合おうと努力する…それは、現在の観客が求めているものなんでしょうね」と続けました。

後に登壇したアラン・ラッドJr. 審査委員長は「迷子の警察音楽隊」の東京 サクラ グランプリ受賞について、「この作品は、満場一致で“良い映画”だと審査員が判断しました。政治や個人の主張――つまり何かを相手に伝えよう、押し付けようとする映画ではないのです。舞台を別のどこかに設定しても成立する映画であり、人間の感情や、人が努力をして生き延びようとする姿を描いた、普遍的な映画であることが重要だったのです」とコメントした。

フォトセッションを含めると2時間にもおよぶ長時間ながら、最後まで程よい緊張感と和やかなムードが持続した記者会見でした。
東京 サクラ グランプリを受賞した「迷子の警察音楽隊」のエラン・コリリン監督、サッソン・ガーベイさん
■審査員特別賞「思い出の西幹道(仮題)」
まず最初に登場したのは、審査員特別賞の「思い出の西幹道(仮題)」から、リー・チーシアン監督と共同脚本のリー・ウェイさん、そして主演女優のシェン・チア二ーさん。「10月30日が誕生日」というウェイさんは「良いバースデー・プレゼントになりました」と喜びを語り、チア二ーさんは「かけだしの女優の私が東京に来られたことだけでも幸運なのに、賞までいただけて」と初々しいコメントを残しました。「なかなか監督するチャンスに恵まれなかった」(チーシアン監督)と、映画化まで13年間を要した同作品。「数十年かけて運命の人とめぐりあうこともあれば、数秒で出会うこともあるのが人生。掛かった年月は問題ではありません」とウェイさんは付け加えました。
脚本のリー・ウェイさん、リー・チーシアン監督、シェン・チア二ーさん
■最優秀監督賞「デンジャラス・パーキング」
最優秀監督賞を受賞した「デンジャラス・パーキング」のピーター・ハウイット監督は、プロデューサーのジュールズ・ベイカー=スミスさんと登壇。「興奮している時、私はとにかくしゃべりまくるんです」と監督自ら語る通り、作品のイマジネーション豊かな表現や「人生のダークな側面について目を向けた原作のスピリットを再現したかった」という想いについて、ユーモアを交えながら次々と語ってくれました。日本映画以外で唯一のワールド・プレミアとなったことについては、「映画祭のスタッフが作品を選んで呼んでくれたわけですが、作品のトーン、リアリティを東京の人々はよく理解してくれました。TIFFもこの映画も非常に“正直”だと思います。それは、自分の信念をハッキリと言うこと。TIFFほど(プレミアに)ふさわしい映画祭はなかったと思います」とコメントしました。
プロデューサーのジュールズ・ベイカー=スミスさん、ピーター・ハウイット監督
■最優秀女優賞「ガンジー、わが父」、最優秀男優賞「トリック」
最優秀女優賞「ガンジー、わが父」(シェファリ・シャー)と最優秀男優賞「トリック」(ダミアン・ウル)は、残念ながらどちらも受賞者が来日しておらず、監督が代理として登壇。「ガンジー、わが父」のフェロス・アッバース・カーン監督は、受賞後すぐにシャーさんに連絡を入れたそうで「彼女は大変喜んで、感謝していました」とのこと。シャーさんさんはこれまで「女優としてあまり正当な評価を受けてこなかった」らしく、「彼女がどれだけすばらしい女優かを証明できて、本当に嬉しい」と、監督自身の念願が果たせた喜びも語ってくれました。
フェロス・アッバース・カーン監督
“学校のために来日を見送った”というダミアン少年の功績を「当然かな? と思います」と語ったのは、「トリック」のアンジェイ・ヤキモフスキ監督と、監督の妻であり美術のエヴァ・ヤキモフスカさん。「数百人のオーディションでも子役が見つからなくて、撮影直前ギリギリに、ロケ先の通りに住んでいるダミアンを見つけたんです」と、監督はキャスティングの経緯を説明。「ダミアンには演技経験がまったくありませんでした。しかし、母子家庭という彼の境遇がキャラクターに近いこともあったのでしょうが、優れたインテリジェンスで、すぐにこちらの意図を掴んでくれました」と絶賛しました。
美術のエヴァ・ヤキモフスカさん、アンジェイ・ヤキモフスキ監督
■最優秀芸術貢献賞「ワルツ」
最優秀芸術貢献賞「ワルツ」からは、サルバトーレ・マイラ監督と主演女優のマリーナ・ロッコさん、プロデューサーのジャンマリオ・フェレッティさんが登壇し、それぞれに受賞の喜びと感謝の意を述べました。“ワンカットで85分間を撮りきる”という前代未聞の作品に、フェレッティさんは「監督が企画を持ってきたときは『かなり難しい』と思ったが、やってよかった」とコメント。マリーナさんは、「監督が本当に労を惜しまなかった作品。苦しみが成功に繋がったすばらしい例だと思います」と語りました。「徐々に時間を延ばしてリハーサルを入念に行ったので、NGは思っていたほどは多くなかった」と語ったマイラ監督。次回作も同様の“ワンカット構成”とのことで、「2時間を考えています。今回は屋内でしたが、次は村全体を巻き込んだ屋外で撮るつもり」と、マスコミ陣を驚かせました。2時間気を抜けない相当なプレッシャーが想像されますが、マリーナさんは「(次回作の出演依頼があったら)もちろん出ます!」と力強く答えていました。
プロデューサーのジャンマリオ・フェレッティさん、マリーナ・ロッコさん、サルバトーレ・マイラ監督
■観客賞「リーロイ!」
「本当に驚いた!」とサプライズ・ムードに包まれての登壇となったのは、観客賞の「リーロイ!」の監督アルミン・フォルカースさんと主演のアライン・モレルさん。両者とも受賞を「まったく予想していなかった」とのことで、素直に喜びを表す初々しさが目立ちました。「ドイツではホロコーストを学べる場所がたくさんあり、子供のころから教育を叩き込まれます。でもコメディ・タッチのものはないんです。人種差別を描いて純粋なエンターテインメント作品に仕上げることは難しいけれど、差別を新しいアプローチで描いてみたかったんです」とはフォルカース監督。モレルさんは「差別と偏見は本当にシリアスな問題です。でも、オープンに話し合える雰囲気を作ることができれば、もっと前向きになれる。コメディはそれができる手法だと思うんです」と、作品について語りました。
アライン・モレルさん、アルミン・フォルカース監督
■日本映画・ある視点:作品賞「実録・連合赤軍―あさま山荘への道程」、特別賞「子猫の涙」
「日本映画・ある視点」では2作品が賞に輝きました。作品賞は「実録・連合赤軍―あさま山荘への道程」(若松孝二監督)、特別賞は「子猫の涙」(森岡利行監督)です。
「文化庁の助成金申請も蹴られ、映倫審査も最初は受けてもらえなかったこういう作品が賞をもらえるとは、選んでくれた映画祭に本当に感謝しています」と語ったのは、若松監督。「『突入せよ! あさま山荘事件』を観て腹が立った」と会場の笑いを誘いながら作品のきっかけを明かし、「この作品でぼくは(警察、赤軍)どちらにも側にも加担していないです。綿密にリサーチしてますから、90%は真実。なぜ若者が連合赤軍に身を投じたのかきちんと描いていますから、本当に面白いですよ!」と、今後の公開に向けて作品をアピールしました。
若松孝二監督
「子猫の涙」の森岡監督は、「手前みそですが、おじ(日本ボクシング史上3人目のメダリスト森岡栄治)の映画を作れて嬉しいです。この賞は、おじの賞なのかなと思います」とコメント。ボクシングの内藤VS亀田戦で話題になった反則“サミング”にも触れ、「おじは2戦目でサミングされて目がほとんど見えなくなり、その後は隠して試合をしていたんです」と明かした。
森岡利行監督
■東京 サクラ グランプリ「迷子の警察音楽隊」
そしていよいよ、東京 サクラ グランプリ「迷子の警察音楽隊」のエラン・コリリン監督と、主演のサッソン・ガーベイさんが登場しました。「受賞の瞬間は、本当に他愛のないことを考えるものですね。どうやって舞台に上がればいいのか、段取りだけを考えていた」というコリリン監督に、「あの賞も名前が呼ばれず、この賞も呼ばれない…と、二人でほどんとあきらめていた」というガーベイさん。会場の笑いを誘いながらも、満面の笑みで受賞の喜びを語りました。「なぜこの映画が全世界で受け入れられているのか?」という質問に監督は、「私は映画を作るだけで、他人が批評したり、作品を観て意見を持つ。なぜなのかは、自分自身では分かりません」と答え、その後ガーベイさんが「この映画は思いやりが描かれていて、それに人々は安らぎを感じるのでしょう。ひとつの小さな村で、国や宗教を超えた出会いがあり、お互いが通じ合おうと努力する…それは、現在の観客が求めているものなんでしょうね」と続けました。
サッソン・ガーベイさん、エラン・コリリン監督
後に登壇したアラン・ラッドJr. 審査委員長は「迷子の警察音楽隊」の東京 サクラ グランプリ受賞について、「この作品は、満場一致で“良い映画”だと審査員が判断しました。政治や個人の主張――つまり何かを相手に伝えよう、押し付けようとする映画ではないのです。舞台を別のどこかに設定しても成立する映画であり、人間の感情や、人が努力をして生き延びようとする姿を描いた、普遍的な映画であることが重要だったのです」とコメントした。
アラン・ラッドJr.審査委員長
フォトセッションを含めると2時間にもおよぶ長時間ながら、最後まで程よい緊張感と和やかなムードが持続した記者会見でした。